事業を営んでいる法人や個人事業主は、法人税や所得税を納める義務があります。
これら税金は、事業によって得られた所得に対して収めるものです。
所得とは「事業収入」から「事業経費」を差し引いて求めます。
したがって、何が「事業経費」になるのかは非常に重要な問題です。
そこでこの記事では、「事業経費」とは何か、また「事業経費」になる例とならない例について、以下のような水道修理業者の場合で詳しく解説します。
事業経費とは何か?
「事業経費」とは、法人や個人事業主などが事業を行うために使用した費用のことです。
「事業経費」は、「必要経費」または単に「経費」とも言い、法人税や所得税の確定申告をする際に必要となります。
ある支出が「事業経費」になるのかならないのかによって、納税額は変動するもの。
このため、「支出が経費になるのか、ならないのか」の判断は非常に重要です。
確定申告による納税
日本では「申告納税制度」が採用されています。
このため、法人や個人事業主が自身で法人税や所得税を計算して、納税額の申告と納税をしなければなりません。
この記事では詳しく触れませんが、事業を営んでいない個人でも確定申告が必要な場合があります。
この「申告納税制度」に基づいて、1年間の所得に対する納税額を計算して、申告し、納税するという一連の手続きのことを確定申告と言います。
確定申告をする際は、1年間の「事業収入」から「事業経費」を差し引いた所得を計算して、その所得に所定の税率をかけて納税額を計算します。
つまり、以下の計算式で納税額の数値を求めることができます。
納税額=所得(事業収入-事業経費)×税率 |
法人の場合と、個人事業主の場合とで確定申告の具体的なやり方や申告内容が異なるため、注意しましょう。
法人の確定申告
法人は、以下の税金について確定申告をしなければなりません。
- 法人税
- 消費税
- 法人事業税
- 法人住民税
「法人税」「法人事業税」「法人住民税」は、事業年度終了日の翌日から原則として2ヶ月以内に、前事業年度1年間を対象として確定申告を行う必要があります。
「消費税」については、3月31日までに前年1年間分を対象とした確定申告をする必要があります。
個人事業主の確定申告
個人事業主は、原則として2月16日から3月15日までの期間に、前年1年間(1月1日から12月31日まで)の所得税に関する確定申告をしなければなりません。
特に、個人事業主の場合は「事業を行うための経費支出」と「プライベートな支出」をきちんと分けて所得税の計算をしなければならないため、注意が必要です。
事業経費と認められるための要件
ある支出が「事業経費」と認められるためには、次の要件を満たしている必要があります。
- 事業に必要な支出であること
- 債務が確定した支出であること
- 費用の支出が証明できる書類等があること
加えて、個人事業主の場合には次についても満たしていなければなりません。
- プライベートな支出を除いた支出であること
以下からは、それぞれについて詳しく説明します。
【1】事業に必要な支出であること
ある費用が「事業経費」として認められるためには、その支出が「事業を行う上で必要なもの」であることが必要です。
「事業経費」には、例えば「事業収入」を得るための仕入れ費用や商品・サービスを提供するための費用、会計・人事・庶務などの会社運営に必要な費用などがあります。
【2】債務が確定した支出であること
支出が「事業経費」として認められるためには、法人の場合は事業年度の最終日、個人事業主の場合はその年の12月31日時点で、その支払いの債務が確定している必要があります。
具体的に解説すると、対象となる物品やサービスの提供が完了、かつ支払い義務が発生しており、その金額が合理的に算定できることが要件となります。
【3】費用の支出が証明できる書類等があること
ある支出が「事業経費」と認められるためには、「債務が確定した費用」の支出が証明できる書類等が必要です。
一般的には領収書が利用されることが多く、領収書によって支出を証明することができます。
バス代や電車代など「領収書がもらえない場合」や、領収書を紛失した場合でも、きちんとした記録を残しておき、支出が証明できれば、領収書がなくても「事業経費」にすることができます。
記録方法としては、会計帳簿や出金伝票に、費用を支出した日付や金額、相手先、目的(電車代の場合は行先と用件)が分かるようにして記入する、などです。
【4】プライベートな支出を除いた費用であること
個人事業主が、自宅の一部を店舗や作業場として使用している場合は、以下で解説するように費用の按分が必要です。
例えば、事業とプライベートで使用する水道光熱費や固定資産税、自動車のガソリン代・維持費などについて、プライベートで使用した支出を除いた費用を「事業経費」としなければなりません。
これらの費用を「家事関連費」といい、事業用とプライベート用を区分する明確な基準を決めておく必要があります。
例えば、自宅兼店舗の水道光熱費や固定資産税などは、「使用する面積比」で区分したり、自動車に関する費用は走行距離で区分するなど、合理的な基準を決めましょう。
この合理的な基準によって「事業経費」と「プライベート費用」を区分することを「家事按分」といいます。
事業経費になる勘定科目
確定申告において「事業経費」になる代表的な勘定科目について、水道修理業における経費算出を例に挙げながら説明します。
勘定科目とは、お金の出入りを帳簿に記載する際に使用する、取引内容分類のための名称のことです。
租税公課
租税公課とは税金のことで、水道修理業に関わる事業税や固定資産税、収入印紙代などは「事業経費」とすることができます。
逆に「事業経費」にならないものとして、所得税や法人税、住民税のほか、延滞金や罰金などがあります。
個人事業主として水道修理業を営んでいる場合で、自宅の一部を水道修理業の事務所や作業場に使用している場合は、合理的な基準に基づく「事業経費」と「プライベート費用」を区分する「家事按分」を行いましょう。
家事按分により、事業にかかった税金のみを「事業経費」として計上します。
給与賃金
水道修理業を行うために従業員を雇用している場合は、従業員の給料・賞与・退職金のほか従業員へ支給した作業着・ユニフォーム、食事などの現物給与も「事業経費」として計上することができます。
地代家賃
水道修理業で事務所や作業場、駐車場などを賃貸利用している場合は、敷地の地代や建物の賃料が、「事業経費」になります。
個人事業主の場合で、賃貸している自宅の一部を水道修理業の事務所や作業場として使用している場合は、「家事按分」によって、事業にかかった地代家賃のみを「事業経費」として計上します。
水道光熱費
水道修理業で使用した水道料金、ガス料金、電気料金、石油代や灯油代などは、「事業経費」になります。
水道光熱費についても、個人事業主の場合は「家事按分」によって、事業にかかった水道光熱費のみを「事業経費」として計上してください。
通信費
水道修理業を営む企業が使用した電話料金、インターネット接続料、携帯電話料金、切手代などは、「事業経費」になります。
水道修理業を営む個人事業主の場合は、プライベートで使用した通信費が「事業経費」にならないため家事按分を行いましょう。
新聞図書費
水道修理業を営む上で必要となった新聞代や書籍・雑誌代などは、「事業経費」になります。
しかし、得られた情報が水道修理業と直接関係する情報でなければ事業経費として計上できません。
荷造運賃
水道修理業の経営上で使用した商品や、部品などの荷造費用や梱包費用、輸送費用は、「事業経費」になります。
旅費交通費
水道修理業を運営する上で使用した出張旅費、宿泊費、高速料金、時間駐車場代などは、「事業経費」になります。
広告宣伝費
水道修理業の告知広告や宣伝のために使用した費用、試供品などの費用も「事業経費」になります。
また、会社や事業内容を紹介したり、広告・宣伝効果を想定したホームページを開設・運営する費用も「事業経費」になります。
このとき、資本金1億円以下の中小企業者等であれば、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」が利用できます。
特例を利用することで、ホームページ作成を業者に依頼したときの制作費が30万円以下であれば、広告宣伝費として「事業経費」に計上できます。
ただし、ホームページに「ソフトウェア」に該当する機能が含まれる場合は、その部分は「無形固定資産」となります。
無形固定資産は、法定耐用年数(3年または5年)で均等に減価償却する必要があります。
接待交際費
水道修理業で使用した取引先の接待費用、贈答品、来訪者への茶菓子代、取引先の送迎費用などは「事業経費」になります。
しかしながら、接待交際費には上限があり注意が必要です。
例えば、資本金1億円以下の法人の場合、年間交際費の上限は800万円となっています。
なお、個人事業者の場合の接待交際費には限度金額はありません。
消耗品費
水道修理業で使用した「使用可能期間が1年未満」または「取得価額が10万円未満」の消耗品(事務用品、日用品、工具・器具、社用車のガソリン代など)は「事業経費」になります。
耐用年数が「1年以上、かつ取得価額が10万円以上20万円未満」のものは備品となります。
こうした備品は、一括償却資産として耐用年数に関係なく、3年で均等に減価償却しなければなりません。
修繕費
水道修理業を営むために必要となった、事務所の修繕費、社用車の修理費などは「事業経費」になります。
ただし、資産の使用年数を延長させたり、資産価値を向上させたりするような費用は「資本的支出」になり、複数年にわたって減価償却する必要があります。
減価償却費
ある固定資産が、水道修理業を営むために必要なものであれば「事業経費」とすることができます。
取得価額が10万円を超える建物や車両などの固定資産を購入した場合は、購入した年に全額を費用として計上することはできません。
このような固定資産を取得した場合は、法定耐用年数に応じて、減価償却費として年々計上しなければなりません。
例えば、20万円のパソコンを購入した場合は、法定耐用年数が4年なので、4年で減価償却することになります。
外注工賃
水道修理業の業務を外部業者に委託した場合の外注費は「事業経費」になります。
車両費
水道修理業で使用した、社用車の車検費用や維持費などは「事業経費」になります。
なお、ガソリン代は、消耗品費・旅費交通費・車両費のいずれかの勘定科目に計上することができます。
個人事業主で事業用とプライベート用で自動車を兼用している場合は、走行距離の比率などで「家事按分」をして、事業にかかった車両費のみを「事業経費」として計上します。
賃借料
水道修理業で使用した、OA機器や自動車などのレンタル料は、賃借料として「事業経費」に計上されます。
利子割引料
水道修理業のために、金融機関から借りた「借入金の利息」や「手形割引料」は「事業経費」になります。
借入金の返済には、「元本部分」と「利息部分」があり、「事業経費」になるのは「利息部分」のみなので注意が必要です。
利子割引料の具体例としては、銀行からの借入金の利息、自動車ローンやカードローンの利息などがあります。
福利厚生費
水道修理業のために従業員を雇用しており、給与や賞与以外での従業員の慰安や衛生、医療、保健などを目的とした費用が発生している場合「事業経費」になります。
福利厚生費として計上できる代表的な例として、以下が挙げられます。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
- 子ども・子育て拠出金の法定福利費
確定申告のためには事業経費を正しく理解することが大切!
本記事では、「事業経費」とは何か、また確定申告において「事業経費」になるもの、ならないものは何かについて、水道修理業者を例に挙げて解説しました。
「事業収入」から「事業経費」を差し引いた「所得」を少なくすることで、納税額を減らすことができるため、「事業経費」を増やしたくなりがちです。
「事業経費」は、その意味や中身についてきちんと正しく理解することが大切です。
適正な確定申告と納税をするようにしましょう。